2015年1月 Monthly Setter Interview
2015年1月3日(土)より、ライノ&バードのMonthly課題が新しくなります。今回のセッターは渡辺数馬(わたなべかずま)さんです。今回も6級から二段まで計20課題作っていただきました。どれも数馬さんらしいポジティブなホールドでガシガシ登っていく気持ちの良い課題になっていると思います。是非遊びに来てください。
そして今月からはセッターにインタビューする新企画「Monthly Setter Interview」が始まりました。普段はなかなか聞けないような深く突っ込んだマニアックな内容もありますので、お楽しみください!
Monthly Setter Interview
Interviewee:渡辺数馬
1985年生まれ29歳。千葉県出身。子供の頃よりクライミングを初め、若くしてコンペや外岩で成果を挙げる。B-session3連覇、ボルダリングジャパンカップ優勝、リードジャパンカップ準優勝、日本選手権準優勝、「四次元」(V14)の第2登、等々、まさに名実共に日本のトップクライマー。現在は福岡にてボルダリングジム「ZipRock」を経営。一児の父。イケメン
Interviewer:植田幹也
-まず初めに、基本的なことを伺います。
クライミング歴とクライミングを始めたきっかけなどを教えてもらえますか
クライミング歴はいつから数えるのか難しいんだけど、15年か16年くらいかな。両親の趣味がクライミングだったから、クライミングを始める前から習志野の公共施設のルート壁とか外の岩には半ば無理矢理連れて行かれてたよ。ちなみに茂垣君も習志野の公共施設でクライミングを始めたから、彼とはそこからの付き合いかな。
本格的に始めたのは小学6年生から中学1年生くらい。中学1年生の時に出場したJOCで負けたのが悔しくて、それから地元の「船橋ロッキー」に自分で通うようになったかな。その頃は近くには船橋ロッキーしかクライミングジムは無かったしね。
-その後、数々のコンペに出場されるようになったと思いますが、印象に残っているものをお願いします
僕は優勝など良い成績が残せたコンペよりも、悪い成績だったり悔しかったりした時の方が印象に残っている方なんだよね。もちろん優勝とかするとその時は嬉しいんだけど。
印象に残っているコンペの1つ目は2005年のボルダリング世界選手権ドイツ・ミュンヘン大会。決勝進出枠が12人だったんだけど、1アテンプト差で13位。でもその時は初めての世界選手権だったから、「結構いけるもんだな」という感触だったかな。
2つ目は4年後の2009年リードワールドカップチェコ・ブルノ大会。こちらも8人決勝枠のところで9位(笑)。結局これが世界大会やワールドカップの最高順位となっていて、決勝には未だに一度も行けていないんだよね。でも機会があればワールドカップの決勝はまだ狙っていきたいと思っているよ。
-外岩で印象に残っている課題はありますか
城ケ崎の「スプラッシュ」(5.13c)はすごく印象に残っている。ルーフからスパッと切れた垂壁を登っていく課題で、核心が垂壁部分にある。「こういうのがカッコ良いクライミングなのだな」と衝撃を受けたかな。それとスプラッシュが登れたのは中学3年生か高校1年生の頃なのだけれど、それまではジムのセッションくらいしかしてこなかったから、何日も掛けて1つの課題に取り組むということ自体がとても面白かった。スプラッシュは計7トライしかしていないけど、結局完登までには3日かかったかな。
-ボルダーで初めての初段、二段、三段、四段などは覚えていますか
初めての初段は御岳の「子供返し」だね。初めて外岩のボルダーに行った日に登れた。ボルダーマットも持っていなかったから、知り合いにSサイズくらいの小さいマットを借りて行ったかな。スプラッシュを登ったすぐ後に行ったから、「こんなに小さい岩を登るのかー」って感じた記憶があるよ。その日はまず「忍者返し」(1級)を1撃して、その後すぐ隣の「子供返し」を登った。でもその頃は1級も初段もよくわからなかったから、すごいのかすごくないのかわからなくて、嬉しいという感じでは無かったかもしれない。
初めての二段は覚えてない(笑)。いつの間にか登れていたかな。三段は多分御岳の「蟹」なのだけれど、思い入れがないからあまり記憶にないなぁ。
でも四段くらいからは流石に意識し出して、それで初めて登ったのが塩原の「カランバ」。あの頃は関東近辺だとジムクライマーの延長で出来そうな四段は御岳の「蟹虫」と「カランバ」くらいで、この二つを並行して進めていた。小川山には「地獄変」とか「冬の日」はあったけど当時の僕には次元が違うものに感じられたからね。それで「カランバ」は結局10日間くらいかかって登れた。第3登かな。今のクライマーは「カランバ」とかはバコバコ登っちゃうからすごいよ。もちろん今と昔では動画とか情報とかの差はあるとは思うけど。
-ちなみにコンペや外岩に行くときに、いつも持っていくこだわりの品などはありますか
実はコンペや外岩には「極力何も持って行かない」ことを心掛けているんだよね。いつもより荷物が多かったり重かったりすると、そわそわしたりナイーブになっちゃうから。コンペには大きなチョークバッグも持っていかないから、それこそ荷物はシューズと腰付チョークバッグと液体チョークだけかな。
ちなみにシューズはこの「インスティンクトVS」が今一番の本気シューズだね。
-最近の大きな出来事として、ZipRock設立のきっかけなどを教えてください
高校生くらいでジャパンカップの決勝に残ったりしたあたりから「クライミングで家族を養えたら良いな」と漠然とは思っていたかな。ホールドも好きだしルートセットも出来るし、ジムオーナーには興味があった。でもいくらかかるのかもわからないし、具体的には特に何も考えてはいなかったね。
一番のターニングポイントになったのは2009年のグランドフォールで足の怪我をした時。その後すぐに結婚もしたし、色々考えた時期だった。そして具体的に考えた結果、「意外と金銭的にもギリギリいけるんじゃないか」と思って、脳内見積もりを作成してからはすぐに実行に移したかな。松葉杖をつきながら調べたり考えたりしていたよ。
それでどこに出そうか考えた時に、まず関東には出せないと思ったね。自分が育ってきた環境だったから、そこで他のジムの敵になるようなことはやりづらかった。今考えるとそんなことも無いとは思うけどね。それと1日10人とか少ないお客さんの数でも家賃的にやっていけるところということで、地方を選んだというのもあるかな。あと自分の外の岩のクライミングを考えて、ほとんど外の岩を登りつくした関東よりは、難しい岩があるところが良かった。嫁(渡辺沙亜里さん)も九州を気に入ってくれてたみたいだし、今言ったようなことを総合的に考えて九州を選んだという感じだね。外の難しい岩って意味では、ジム激戦区だけど、愛知や岐阜も良かったかもと今になって思う(笑)。
-少し話題を変えさせていただきます。
数馬君というと、コンペに向けて自分なりにトレーニングや減量の方法やスケジュールを考えているイメージがあるのですが、そのあたりの話を聞かせてもらえますか
たぶん強いクライマーは皆自分なりにそのあたりのことは自分なりにきちっと考えているけれど、発信している人が少ないだけじゃないかな。僕はあえて周りに発信することで、やらざるを得なくしているという面もあるけどね。
-今、目標や節目としているコンペはありますか
すごい直近というわけではないけど、今の目標はボルダリングジャパンカップとノースフェイスカップ本戦かな。
あとこれはまだ嫁にも話していない2015年の目標なのだけれど、一度は諦めたリードジャパンカップにも出場しようと思っている。一度諦めたのは近くにPUMP2が無いという理由が大きくて、昔の自分はPUMP2の環境の素晴らしさに甘えて何も考えず、あの壁が無ければリードのトレーニングは出来ないと思っていた。でも最近はZipRockを使ってボルダーの長物とかをすればPUMP2と同じ負荷を与えることも可能なんじゃないかと思ってきている。試行錯誤中だけど、いけるかなという感触だよ。
-コンペ前にはどのようなトレーニングをしていますか
コンペ前は課題への取り組み方を大きく変えるかな。コンペでは1つの課題を4トライできることはほとんど無いと考えているから、4トライ目で登るような練習をしても価値は無い。なので、コンペ前ではどの課題もトライするのは3回までにしている。
これは実は、オンサイト形式のコンペだけじゃなくて、セッション形式のコンペにも当てはまる話なんだよね。例えばこの間のノースフェイスカップの予選はセッション方式だったのだけれど、1時間半で10課題中9課題を1撃して、残り1課題はそんなに混んでいるわけじゃなかったけど結局3トライしかできなかった。そう考えると実はセッション形式の方がオンサイト形式よりも1課題あたりのトライ数は少なくなるかもしれないし、1撃することがより重要という考え方もできる。それに気づいてこの間のROCK ZipRock戦で参加選手のトライを見てみたら、やっぱり決勝に進む選手は予選の1本目を1撃していたし、1本目で落ちている選手は時間が無くて通過できていない傾向があったかな。
-セッション形式でこそトライ数を重視すべきというのは新しい考え方ですね。また、選手をそこまで観察しているのはすごいです
やっぱりコンペは競争なので、勝ちたいならそういうところまで考えて見る必要があると思うんだよね。コンペが好きならどんなことも詰めて考えないといけない。そういうところに面白味を感じなくて面倒だというなら、コンペには出ないで岩とかに行った方が良いんじゃないかなぁ。
-コンペ前の減量はどうされていますか
減量はコンペ前は必ずする。岩場の本気トライでも減量はしないから、逆に言うと減量はコンペ前しかやらないかな。
今、体重は過去最重量で64kg丁度くらい。ちなみ高校1年生からずっと171cmでリーチ183cmなのだけれど、ボルダリングジャパンカップで優勝した22歳くらいのときは48kgだった。もうそこまでは落とせないけど、今でもコンペ前は58kgくらいにはしているし、できれば56kgとかにもっていきたいかな。
-48kgはヤバいですね。今そこまでの減量をしないというのは考え方が変わったのですか
単に意思が弱くなった(笑)。
でも、実は過度の減量はそこまで効果が薄いんじゃないかと思っているというのもあるかな。64kgから60kgに減らすと登りへの効果はすごい大きいけど、そこから55kgにしてもそこまで効果は出ないということに気付いてきたというのもある。まぁ人によって全然違うとは思うけどね。
-具体的にどのような方法で減量しているのですか
減量の一番の方法は食事制限だね。昔はとにかく食べる量を減らして減量していたから、人には勧められるような方法ではなかったかも。今は嫁と相談して栄養とかも考えた減量をしようかと考え中。
有酸素運動も効果的だね。身体の調子が良い時は1日30分くらいだけどランニングもしているかな。
あとはクライミングで落とすという方法。夏場にやって面白かったのは「灼熱クライミングダイエット」というもので、8級くらいから2級くらいまでを100本ピックアップして、シャッター閉めて冷房切ったZipRockでその100本をなるべく降りないように、レストをしないようにしてひたすら登る。汗の量が半端じゃないから首にタオルを巻きながら登る。これをやると1.5kgくらい落ちる。結局水分を同じくらい飲むけどね。まぁほぼ減量のための遊びだね。あとは20歳くらいの時に「リンゴしか食わない3日間」とかやって2kgくらい落としたこともあるかな。激しくリバウンドしたけど。まぁ大半失敗しながら試行錯誤しています(笑)。
-減量の話、面白すぎます。
ちなみに数馬君というとキャンパシングトレーニングの印象が強いのですが、キャンパシングはどのようにやっているのですか
これまではキャンパシングは僕にとってアイシングと同じように、何も考えず習慣としてやっているものだったかな。でも去年くらいからはキャンパシングを課題として捉えて、例えば「4段飛ばし」とかの目標を決めて集中してやっていた。それをだいたい半年続けた結果キャンパシングは上手くなったのだけど、果たしてクライミング能力が鍛えられたのかはわからないかな。というのも自分は上体を上げて登るクライミングが得意で、悪く言うとそれでしか登れないんだけど、キャンパシングをすることはその自分の得意な分野を伸ばしているだけじゃないかと最近思い始めたんだよね。このまま普通にキャンパシングをしても弱点克服にはならないから、今はキャンパシングをするときはあえて腕を伸ばした状態でやったりとかするかな。
それにキャンパシングで単に距離を出すだけなら結構コツとかはあって、例えば次の手を取る瞬間に引いている方の手をカチってロックすると体感では5cmくらい距離が伸びる。キャンパシング大会とかがあればこういったテクニックをどんどん使うべきなのだけど、目標はクライミングのトレーニングなわけだから、例えばオープンを鍛えたいならこのテクニックを使わない方が良いと思う。
キャンパシングに限らず、どんなトレーニングでも日課のようにずっと繰り返すと効果は薄くて、慣れないように常にトレーニングをアレンジし続けることが大切だと思う。もちろんお客さんを見ていると「この人に引き付ける能力さえあればもっと登れるのになぁ」という人はたくさんいるからそういう人は積極的にキャンパシングをするべきだけどね。
-最近の外岩に対する取り組みはどうでしょうか
外の岩に対するスタンスは九州に来てから大分変った気がする。これまで外岩をメインにしていたのは高校生の時に「スプラッシュ」や「リキッドフィンガー」(5.13d)にトライしていた時くらいで、それ以降はコンペを常に中心に捉えていた。だからクライマーというよりはコンペティターと呼んだ方が正しくて、岩の知識もそれほど無かったかな。
それで九州に来て外岩に標準合わせだして、指皮の温存とかすごい当たり前のようなことに気を付けるとかから始めて、コンペとは違う調整をするようになってきた。そうしたら徐々に成果も出始めて、この間目標にしていた日之影の「四次元」(V14)を第2登することが出来た。次に狙っているのは「四次元」のロースタートのエターナル(V15/V16、日本最難課題の一つ)かな。
-外岩での目標課題を落とすために具体的にはどのようなトレーニングをしていますか
狙っている課題を意識して、自分で課題を作ったりするね。コンペに向けたトレーニングでは色々なタイプの課題をやるけど、外岩の場合はその課題に合わせた身体作りすることが重要だと思う。例えば「四次元」はヒールとトウを多用するから、ZipRockのバルジ壁にヒールとトウを使う課題を作ってトライしていた。あとはお客さんが普通につま先で踏んで登っている課題をあえてヒールとトウで登ったりもしたよ。外岩の目標があると日々のトレーニングも集中できるし楽しいと感じるよね。
-外岩とコンペはどのように両立していますか
今まではコンペモードになったら一切岩には行かなかったけど、最近はジムのオンサイトトレーニングと岩でのトレーニングを上手く組み合わせて調整してコンペに挑むこともできるのではないかと思い始めている。福岡なら1時間で行ける外の岩はいっぱいあるし。
昔はお客さんにも「コンペ前は岩に行かない方が良いですよ」と言っていたのにすっかり変わってしまったかな(笑)。
-クライマーに対してトレーニングのアドバイスなどはありますか
大半の上級者が言うと思うけど、変にトレーニングをするならとにかく登ることだけをするべき。ただし、常に考えて登らないと意味はないかな。例えばその日は「この2級課題を落としに来ているのか」「100課題こなして持久トレするのか」「筋力トレーニングしに来ているのか」等を考えるべき。セッションをすることはとても楽しいのだけれど、一年間ただセッションしかしないのはまずい。
そして、筋力トレーニングをするときもクライミングウォールの中でそれができないかを考えると非常に良い。もちろん例えば懸垂をすることで二頭筋や広背筋を鍛えることは大事だとは思うけれど、実際のクライミングの課題で鉄棒のように懸垂できる課題はあまりないからね。それならクライミングウォールの等間隔に並んでいないホールドで懸垂をする方がクライミングの動きに流用しやすいと思う。ローリーボールを使って振られに耐えるトレーニングも有効かもしれないけど、実際のルーフ壁を使っても例えばトウフック外して振られに耐えるトレーニングとか考えればたくさんやれることはあるんだよね。ワールドカップに出るようなクライマーは器具のトレーニングで付けた筋肉をクライミングに生かすことができるけど、例えば始めて1年とかの人が器具で付けた筋肉をクライミングに生かすのは難しいと思う。だから例えばフィッシュ&バードのキャンパスボードに付いているRock Candyのスローパーとかは実際のクライミングとほぼ同じシチュエーションでトレーニング出来るからすごい良いと思うよ。
-トレーニングは目から鱗な話が多くて非常にためになりました。
話はガラッと変わりますが、他のクライマーについて伺いたいと思います。
まず、「理想的なクライマー」と言えば誰を挙げますか
強さという意味での理想的なクライマーは国内だとサチ(安間佐千さん)とココロ(藤井快さん)かな。
サチはクライミングに対する感覚がすごい。例えば他のクライマーが10回ホールドを保持して、良い持ち方とかに気付くことをサチは一番初めのタッチで気づいている。サチというと体の細さとか軽さとかに目が行きがちだけど、そういった感覚の違いが持久力の違いとかオンサイトできるかどうかとかを分けていると思う。持って生まれた能力か、意識し続けて会得したのかはわからないけれど、怪我もしづらいし理想的だとは思うな。
ココロは自分と比較的体格が近いという意味で、身体の使い方とかリーチの生かし方が参考になった。決して軽い方ではないのだけれど、自分の重さとかリーチの長さとかをきちんと把握していて、他人の登り方に捉われないで自分の登りを確実にしているところが理想的かな。
-今注目している”ヤバい”クライマーはいますか
最近自分は外岩に興味があるので、その意味でこの人ヤバいんじゃないかと思うのは倉上君(倉上慶大さん)かな。マット敷かないしね。最近外岩によく通い出して考えることは、メインのマットの位置とかを落ちる回数とか足擦りそうなところとか計算して配置しているのだけど、マットが足りなかったりしてそのあたりがうまく出来ないと初段・二段でも敗退するんだよね。でも倉上君の成果は、そういう計算とか考えを打ち消すものだから本当に驚く。黒本全部登ったとかヤバいでしょ。すごいのはアダム(アダム・オンドラ)とかだけど、ヤバいのは倉上君かな。マネはできないけどカッコ良いなと思っちゃうね。
実はまだ倉上君には会ったことが無いんだけど、来月二人で仙台のズィーボックスでスカルパプレゼンツのイベントをやるのですごい楽しみ。同い年だしね。
-では、ライバルはいますか
コンペだと昔は信太(小澤信太さん)とかだけど、今は言われてみればライバルはいないなぁ。カッコつける言い方になってしまうけど、昔の自分に憧れていてそれを超えたいという想いはあるかな。22,3歳のときの、コンペに出るたびに良い成績を出せていた頃の自分。体重だけが全てじゃないけど、あの頃より軽くなりたい、あの頃より登れるようになりたい、という気持ちはあるよ。「あの頃」とか言っている時点で無理なのかもしれないけど。もちろん昔やっていた課題は消滅しているし、周りも強くなっているから昔の自分の方が強いかどうかなんてわからないんだけど、感覚的にはあの頃の自分に辿り着けている気はしないなぁ。でも逆に考えれば来年30歳だけど伸びしろはあるはずだとまだまだ思っているよ。
-カッコ良いですね、ありがとうございます。
ではようやく本題に入りたいと思います。
今回作成していただいたMonthly課題のことなどを伺いたいのですが、まずその前にライノ&バードの壁に関してはどのような感想を持ちましたか
ライノがオープンして遊びに来たころから感じていたことだけど、とにかく高さがあるという印象だね。高さがあるということは初心者でも上級者でも最後はどうしてもビビる。そういう気持ちになることで落ちることをコントロールする習慣がつくと思うんだよね。もちろん怪我もあるとはおもうけど、ある程度はクライマーとしてはしょうがないところだとは思う。実はライノと品川ロッキーを見ていたから、ZipRockも高い壁にした方が良いと思ったんだよね。マット下から4.5メートルにしようと思ったら、間違えてマット上から4.5メートルになっちゃったから、結局4.8メートルの壁になった(笑)。
あと壁が高いと子供が来ても集中して登ってくれるね。低いジムだとアスレチック感覚になってしまう子も多いと思うんだけど、壁が高いと「クライマー」になってくれる気がする。怖いけど登れたという体験をして欲しいんだよね。
-ライノのホールドの付き方などは何か思うところはありましたか
これはライノだけというより関東のジム全般に言えることだと思うんだけど、カチホールドの扱いが九州とは違うかな。九州だとどうしても核心をピンチやスローパーに持ってくるんだよね。カチはあくまで中継用だったりすることが多くて核心に来ることは少ない。でも関東や関西は岩場志向のクライマーが多いせいか、簡単な課題であっても核心にカチを持ってくることが多い。ライノやフィッシュでは4級でも激カチを核心に持ってきたりしている課題があるように見えるんだけど、でも登ってみると「あー4級だなぁ」と思えてしまう。自分も千葉出身でそのスタイルを九州でも出そうと思ったけど、中々出せていないからそこは勉強になったかな。
-Monthly課題はどのようなことを意識して作りましたか
意識したことは、淳(清水淳さん、12月のMonthly Setter)がクリンプとか悪いホールドを保持させる系の課題が多かったから、毎月通っているお客さんのためにも今回はダイナミック系を多くしたかな。ポジティブで大きなホールドを繋げることを意識した。デカもの系が多いけど、マンスリーはクセがある方が良いかと思って。テープ課題は1年間とか残るけど、マンスリーは辛くても甘くても1ヶ月で消えるので、とにかく自分の色を出したつもりかな。
-Monthly課題の中で特にオススメはありますか
易しめの課題の中では、150度の5級(4番)かな。ルーフをトラバースするだけの課題なんだけど、色んなやり方があって面白いと思う。昔は自分も真上に登るのがクライミングだと思っていたけど、最近トラバースにしかない面白さがあると気づいてマイブームなんだよね。
中級くらいの3~2級はトライするお客さんも多いだろうし一番時間をかけて作ったかな。その中でオススメは100度の2級の足自由課題(11番)。スローパーと甘いピンチばかりを使っているから、余程身長が低かったり高かったりしない限りは、ほぼみんな同じスタンスを踏むことになると思う。これも最近考えているんだけど、足自由は初心者のものという概念を壊したいと思って作ってみた。
難しい課題には、行きの電車から考えていたんだけど、淳のマンスリーに無かった「大ランジ」と「地ジャン」を入れたかった。最難は100度の二段(19番)だと思うけど、面白いのは100度の初段(17番)の地ジャン課題かな。他のお客さんの迷惑にならないように混んでいない時にトライしてみてください(笑)。
<Monthly 4番 5級>
<Monthly 11番 2級>
<Monthly 17番 初段>
-では、最後に自身のクライミングやZipRockの将来の目標などを聞かせてください
プレーヤーとしては去年くらいからふつふつと思っているんだけど、子供の記憶が残る年齢くらいまでは上手なクライマーでいたいと思うかな。今でも僕が岩場で叫んだりしているのを、子供もマネしたりして叫んだりしているからある程度は見てくれているんだけど、その内すぐ忘れるだろうから。今1.5歳だから後5年くらいは「お父さんは自分のために頑張っているんだな」という姿を見せるためにも、頑張りたいかな。コンペや外岩もそのためにやっているのかもしれない。
ZipRockとしての目標は何店舗とか年商いくらとかは全く考えていないんだけど、うちで始めたクライマーは外の岩場に行ってほしいなという気持ちはあるね。例えば関東で登っているクライマーは少し上手くなると「愛知に行こう」とか「九州トリップしよう」とかなるんだけど、九州のクライマーはなかなかそうならないんだよね。個人的な気持ちとしては、ジムでも良いから関東とか関西に登りに行って、「ジップで登ってます」と言ってくれると嬉しいな。それに何より岩にハマるとクライミングやめなくなるからね(笑)。僕らが定休日に岩場に率先して行っているのも、お客さんにそういう姿を見せるためという意味合いもあるかな。でも最近周りから「ジップのお客さんはみんな岩に行くね」という声もだんだんと聞かれるようにはなってきた気はする。
最近思うことは、九州に行こうが東北に行こうが、どこにいてもクライマーは集まるし、クライマーは同じ感じだから、九州のクライマーも他の地域の若い子達ももっと行きたいところに行って良いと思うんだよね。「近いからこのジムに行く」ではなく、「ここのジムが面白そうだから1時間半かけて行こうかな」とか、「御岳行ったことないけど比叡に行ってみるか」とかそういうことをどんどんした方が良いんじゃないかな。
僕が九州を選んだことも「すごいねー」とかよく言われるけれど、実際そんなに深く考えずに選んだら、結果としてすごい良いところだったというだけだしね。それに別に九州じゃなくて千葉でも岐阜でも同じようなことはきっとできたはずだと思うんだよね。場所とかに捉われないで色んなところにどんどん出てみると考え方とかも変わるんじゃないかな。
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